目覚まし秋葉♪


KOH 作

  早朝、志貴の部屋にてうごめく影が一つ。
秋葉 「…兄さん…ねえ、兄さん」
  秋葉は志貴の耳元にそっと唇を寄せ、少しだけ遠慮がちに囁く。
  しかし、志貴は眠ったまま、ぴくりとも動かない。
秋葉 「兄さん、起きてください。兄さんってば」
  今度は少し強く呼びながら、肩に手をかけて体を揺すってみる。
秋葉 「本当に翡翠の言ってた通りね…呼んでも揺すっても全然起きない」
  呆れたように。それから少しだけ嬉しそうに呟く秋葉。
秋葉 「…それにしても綺麗な寝顔ね…息、してるわよね」
  そっと、志貴の唇に顔を近づける。
  自分の姿を想像し、思わず赤面する秋葉。
秋葉 「や、やましい事なんてないわよ…た、ただ、息しているか確かめるだけなんだから」
  誰にともなく言い訳をしている辺り、やましい事満載である。
秋葉 「で、でも、ちょっとつまずいちゃったりして、そんでもって唇がぶつかったって、それは事故よ。事故」
  何をしたいのかは一目瞭然である。
  静かな志貴の寝顔を暫く見つめた後、秋葉は意を決した様にそっと志貴の唇に…。
アルク「…ねぇ、妹。何してるの?」
秋葉 「っ!?」
  驚き振り向く秋葉の目に、窓枠から入り込もうとしているアルクェイドの姿。
秋葉 「あああ、あなた! なんて所から入ってるんですか!」
  秋葉の剣幕にたじろぐ様子すらみせず、アルクェイドはたった今入って来た窓枠を振り返る。
アルク「ん?」
  そして少し呆れたように秋葉に視線を戻す。
アルク「窓だけど…妹、まさか知らないの?」
秋葉 「そういう事を聞いたんじゃありません!」
  真っ赤になって肩で息をする秋葉。
  対するアルクェイドはどこ吹く風といった風情である。
アルク「それで? 妹は何してたの?」
秋葉 「わ、私は兄さんを起こしに来ただけです…その、翡翠では兄は起きてくれないそうですから」
  そう言いながら秋葉は僅かに視線を逸らす。
アルク「ふうん…でも、志貴、起きてないよ」
秋葉 「そ、それは、これから起こそうと思って…あなたこそ、何しに来たんですか!」
アルク 「遊びに…でもさ、妹。なんでそんなネグリジェ着てるの?」
秋葉 「!!」
  慌ててガウンを羽織るが後の祭りの秋葉である。
秋葉 「そ、それは! 私もさっき起きたばかりだから!」
アルク「でも、枕抱えてるし」
秋葉 「こ、これは…その」
  枕を背中に隠すが、どう考えても手遅れである。
アルク「分かった! これはあれだ」
  ニコニコ笑いながらアルクエイドはポンと手を叩く。
秋葉 「…」
  真っ赤になって俯く秋葉。
  既に言葉もないらしい。
アルク「ええと…ほら、日本の風習は一通り覚えてきたんだけど…ええと」
  秋葉はすっかり蛇の生殺し状態である。
アルク「あ、そうそう、夜這い」
秋葉 「なっ…! 夜…夜這いは夜るにするものです!」
  言い当てられた物の認める訳にいかず、幾らなんでもな言い訳をする秋葉。
  しかし。
アルク「あ、なるほど」
  アルクェイドは納得したらしい。
アルク「ねぇねぇ、早く志貴を起こして遊ぼうよ」
秋葉「貴女に言われるまでもありません!って、だから、貴女、なんでこんな所にいるんですか!」
アルク「だから、窓から入って、遊びに来たんだってば。妹、物覚え悪いよ」
秋葉 「くっ! だから! ここは兄の部屋です! 家族でもない人は出て行ってください!」
  ビッ! と、窓を指差す秋葉。
  どうやら完全に窓を出入り口と認識したらしい。
アルク「なんで?」
秋葉 「ですからっ!」
アルク「あ」
 アルクェイドが笑顔を見せる。
 その視線は秋葉の後ろに向いている。
アルク「やっほー、志貴、おはよ」
志貴 「…アルクェイド…朝からうるさい」
アルク「えー、うるさいのは私じゃなくて妹だよ」
秋葉 「だからっ! って、兄さん…起きたんですか?」
志貴「ああ…幾らなんでも寝てられないと思うぞ…それで、一体どういう状況?」
  当然の疑問である。
  アルクェイドはいつもの事として、ガウン着て枕を抱えた妹はどう見ても普通じゃない。
アルク「あのね、妹、志貴に夜ば…はぶっ!」
  至近距離からの枕攻撃をまともに顔で受けて吹き飛ぶアルクェイド。
秋葉 「貴方は黙ってなさい!」
  顔も真っ赤だが、髪も赤い秋葉であった。
アルク「痛〜…ちょっと妹! いきなり何するのよ!」
秋葉「枕投げです!」
アルク「…? ええと、旅先の宿で枕をぶつけ合う競技…だっけ?」
志貴「…枕投げなら自分の部屋でやってく…ぐえっ!」
アルク「たしか、無差別に攻撃すれば良いんだよね? あれ? 志貴?」
秋葉「あああ、兄さん! 大丈夫ですか?! 兄さん!」

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