とらいあんぐるハート2の温泉に行こう1


「あれ?耕介君、これ、なんや?」
 買い物から戻り、食料を冷蔵庫にしまっていると、食堂からゆうひが声をかけてきた。
「これ?」
「これや。なんや、結構分厚いけど」
 ゆうひはテーブルに置いておいた封筒をひらひらさせて見せる。
 横から知佳も一緒に覗きこんでいる。
「あー、ラブレター?」
 からかうような口調の知佳。
 うーむ、最近どうも兄を敬う心を忘れている様だ。
「ああ、それか。商店街の福引で貰ったんだ…どうしたものかと思って」
「そかー、また当ったかー。耕介君、最近ラッキーやね」
 ラッキーか。
 うむ、確かに寮内は比較的平和だしな。
「それで、中身はなんなの?」
「えーと………一応、温泉の宿泊券、かな」
「わー、いーなー」
 知佳が羨ましそうに目を輝かせる。
 …そんなに良いものじゃないんだけど。
「なら、一緒に行くか?」
「え、いいの?」
「うちも、うちもー!」
 ゆうひがはいはいはーい、と手を上げてアピール。
 温泉、そんなに行きたいか?
「ああ、構わないよ」
「え、ほんまに? で、場所は? 熱海? 水上? 草津? 箱根?」
 …いや、そんな良い所じゃないんだな、これが。
「月守台」
 一瞬、場が固まった。
 最初に息を吹き返したのはゆうひだった。
「…つ、月守台ちゅーと、うちが初めてここに来た時に間違えて行った、あの?」
「そ」
 続いて息を吹き返した知佳も尋ねてきた。
「さざなみのお風呂の源泉のある、あの?」
「そ」
 俺はゆうひの手から封筒を取り、中身を見せた。
「なんと、月守台温泉宿利用回数券。10枚綴りだ」
 目を丸くするゆうひと知佳。
 ま、そうだよな。俺も最初は驚いた。
「か、回数券て…」
 呆れたような表情で回数券を裏返したりして見ているゆうひ。
「そんな、バスじゃあるまいし…」
「湯治用の長期滞在宿の宿泊券なんだ。食事は宿で別に出してもらうか自分で作る事になるな」
「あ、それなら全員で行けるね」
 ゆうひと一緒に回数券の注意書きを読んでいた知佳が嬉しそうに言った。
「…でも行きたいか? 月守台だぞ?」
 さざなみのお風呂の源泉と言う事は、月守台まで自分の家の風呂に入りに行くようなものなんだけど。
「私は行きたいな、みんなで旅行なんてまだ一回もした事ないし」
「そやね、近場で一泊ゆーのも気楽でえーかも知れへんね」
 なるほど。
 そうすると…俺、愛さん、真雪さん、知佳、ゆうひ、薫、十六夜さんにみなみちゃん、美緒、リスティと…。
「じゃあ、日程の調整とかはゆうひに任せて良いかな?」
「まっかっせなさーい」

  ***

「…でな、良い機会やからさざなみ寮の親睦旅行ちゅう事で一つ、どやろ?」
 リビングにみんなを集め、ゆうひちゃんが温泉旅行の事を切り出した。
「温泉ですかー、山一つ越えれば月守台ですから気軽に行けるのも良いですねぇ」
 愛お姉ちゃんは封筒に入っていた小さなパンフレットを見て嬉しそうに笑った。
「うー、温泉なんてつまらないのだ、それよりももっと面白い所に行きたいのだ」
「面白い所って?」
 みなみちゃんが小さく首を傾げる。
「色々あるのだ。温泉は真雪みたいに歳とってからで十分なのだ」
 み、美緒ちゃん。それ禁句…。
 恐る恐るまゆお姉ちゃんの方を見ると…。
「………おい、猫…」
 うう…怒ってる。
「…死んだね」
 ああああ、リスティ、せめてフォローしてあげて。
「仁村さん、子供の言う事ですから」
「真雪様も私と比べれば本当にお若いですし」
 うう…十六夜さんよりお年寄りなんていないと思う…。
 みなみちゃんも同じ事を考えたのか、小声で話しかけてくる。
(…知佳ちゃん、あれ、フォローになってないような気がするんだけど)
(…うん…実は私もそう思う)
 と、それまで怒りで拳を震わせていたまゆお姉ちゃんが突然切れた。
「お前ら! そんなにこのあたしを怒らせたいか!」
「お、お姉ちゃん、落ちついて」
「そうですよ、誰も真雪さんが年寄りだとか、小皺が目立つとか言ってませんから」
 あうー、愛お姉ちゃん。…ひょっとしてわざと?
「あ、愛さん、誰もそこまで言うてへんよ」
 ゆうひちゃんの隣ではリスティが頷いている。
「思うだけでね」
「そうそう、真実は人を傷付けるもんなんや、口に出したらあかん……」
 サーーーッという、血の気の引く音が聞こえるかと思うくらい、見事にゆうひちゃんの顔色は青に変わった。
 ブチィッ!!!
 ……何かが切れる音が聞こえたような気がする。
 既にリスティはサイコバリアを展開。
 うー、一応私も…。
 と、そこに何も知らないお兄ちゃんがやってきた。
「みんな、夕食の準備が…ゆうひ、なんで俺の後ろに隠れてるの?」
「バリアーや」
 ゆ、ゆうひちゃん…。
「耕介………そこをどけ」
「どいたらあかん!」
 必死にお兄ちゃんの背中にしがみ付くゆうひちゃん。
「え? なに?」
 訳も分からずゆうひちゃんとまゆお姉ちゃんの間でおろおろするお兄ちゃん。
「そうか、庇い立てするか…」
「は?」

  ***

 結局温泉に行くのは、お兄ちゃんの怪我が治ってから。という事でみんなの意見が一致した。
「耕介君、堪忍な」
 あう…合掌。



続く…かなぁ?(笑)


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