匿名希望さん 作
つけっぱなしのTVに、参拝客でいっぱいの神社の様子が映し出されている。
テーブルの上には、3段ものおせち料理。
ちょっとだけお屠蘇なんて物もあったりして。
正月万歳という感じである。
「これ、おいしーねー、茜」
こいつがいなければ。
「というか、何故ここにいる柚木」
「む、この味付けは砂糖の代わりに味醂を入れたね」
「お前は、人の話を聞けー!!」
「折原君、年の初めに怒ってると一年中怒らなくちゃいけないんだよ」
「お前が怒らせてるんじゃないか!」
いたってのほほんとした声でつっこんでくる柚木に怒鳴り返す。
「詩子も、浩平も新年早々大声でケンカしないで下さい」
室内の温度が下がるような声で、茜が俺と柚木の言い争いにピリオドを打つ。
何故、俺まで怒られるのだろう。
「ほら、茜に怒られた〜」
って、他人事かいっ!
しかし、ここで反論しようものならまた、茜に怒られてしまう事は明白なので、ぐっと我慢する。
ふっ。
大人になったな、俺も。
「まったく、いつまでたっても折原君は子どもだね〜」
「お前に言われたくないぞ!」
「浩平、詩子」
瞬間冷凍。
「ごめんなさい、茜さん」
「ごめんね〜、茜」
さて。
それはともかくお正月である。
正月早々、仕事にかっとんで行った由紀子さんに、当然のことながらおせち料理を用意する暇など無く。
茜がわざわざおせち料理一式等持って訪ねてくれたので、こうしてお正月を満喫できているわけだ。
呼んでもいないおまけもいるが。
「あ〜、もう、お腹いっぱい」
油断している隙に、おせちのかなりの量をせしめられてしまった。
くうぅ、おまけのくせに。
しかし、あれだ。
何か一つ物足りない。
何だったっけか。
答えはすぐに判明した。
思っても見なかった形で、だが。
「こ、これは…」
「お雑煮です」
「いや、それは見ればわかるけど」
白味噌をといただし汁に浮かぶ餅。
確かに雑煮とよべる物に違いない。
とけかかった餅の中から、小豆が見えなければ。
というか、これ、鍋ごと持ってきたんですか、茜さん。
「茜の家では、これが常識なのよ」
そういいつつ、柚木のお箸はさっきからテーブルの上の箸置きから1mmも動いていない。
「食べてないじゃないか」
鋭く突っ込む俺に、日頃の傍若無人さはどこへやら。
ぼそぼそと小声で答える柚木。
「何年たってもこれだけは慣れないのよ〜」
あの柚木さえ慣れないなんてよほど手ごわい代物に違いない。
「おいしいですよ、浩平、詩子」
言葉少なに、しかし、頑として箸をつけることを薦める茜。
「あ、あたしはもうお腹一杯」
「そうですか。では、仕方ないですね」
慌てて答えた柚木に、さも残念そうな茜。
散々お節を食べ散らかしていたのは、これを見越していたためか!?
「浩平は、食べてくれますよね」
心なしか恨めしそう、ではなく、潤んできたような茜の瞳に見つめられる。
拒否権は…無い。
まったく無い。
きれいさっぱり無い。
『裏切り者〜!』
声無き声で絶叫すると。
「い、いただきます…」
恐る恐る箸をつけて。
…新しい年、ではなくて新しい世界が見えた気がした。
<後書き…?>
茜と詩子って書きにくい(泣)
って、いきなり泣き言になってますがいつものメンバー以外でSS書くのって初めてということで、怪しいところも散々あると思いますが、広〜い心でご勘弁していただけるとありがたいです。
あと。
本当に甘いお餅を、お味噌汁に入れて食される地方の方々へ。
これは洒落です。そういう食文化もあるということは重々承知しておりますので、お許しください。
と言う訳で、本年も細々と忘れた頃にSSを書く予定ですので、どうかよろしくお願いします。
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