「幸せのかけら」


匿名希望さん 作


 たとえば、学校の帰り道。
 寄り道したいつものクレープ屋で買ったクレープを一口ずつ交換して食べる時。

 「それ、うまそうだな。一口くれ。」
 「うん、いいよ。はい、あ〜ん。」
 「って、恥ずかしすぎるぞ、それ…」
 

 たとえば、祭りの後。
 街灯の明かりの下、つないだ手に光るもの。

 「何ニヤニヤしてるんだよ。」
 「だ〜って、嬉しいんだもん。」
 「あのな、それ、おもちゃだぞ。」
 「おもちゃでも、指輪は指輪だよ。」
 「ったく…今度本物買ってやるから、喜ぶならその時にしろ。」
 「え?え?それって…」


 たとえば、残業と付き合い酒で夜遅く帰宅した時。
 やっとたどり着いた家の玄関での他愛無いやりとり。

 「ほーら、玄関で寝てないで部屋に入って。」
 「部屋〜?入ってるぞぉ、上半身が〜。」
 「はいはい、足まで全部入ってね。あ、スーツは脱いで座らなきゃだめだよ。」
 「何ぃ?全部脱げって?」
 「わぁ!?下着まで脱がなくていいよ!」
 「……」
 「浩平?寝ちゃったの?仕方ないなぁ。お布団かけて…お休み、浩平。」


 たとえば、雪の降る日の午後。
 はしゃぎ疲れて眠る我が子の寝顔を見てると浮かぶ笑み。

 「やぁ〜っと、寝た。」
 「お疲れ様。コーヒー飲む?」
 「おう、くれ。それにしても、おとなしい顔して寝てるなぁ。」
 「ほんと、起きてる時はちっともじっとしてないのにね。そういうとこ、浩平にそっくりだよ。」
 「…そんなことないぞ。」
 「そんなことあるよ。さっきだって、この子と一緒になってはしゃぎまわってたし。何か、大人の浩平と子どもの浩平がいるみたいだったよ。」
 「う…それは、俺は子どもの時からあまり進歩してないってことか?」
 「うん!」
 「…」


 小さな幸せのかけらがつみかさなってゆく日々。

 「一緒にいられて幸せだよ、浩平。」
 「何だ、急に?」
 「ううん、別に。ちょっと、言ってみたかっただけだよ。」
 「…俺も一緒にいられて幸せだよ、瑞佳。」



 〈後書き…?〉

 ずいぶん前に書いたSSとも呼べない代物ですが、このたび、KOH様の御好意によりこうして日の目を見ることとなりました。

 読んでいただければわかるかもしれませんが、これは、KOH様のみさきさんのシリーズに大いに影響を受けております〈笑〉。

 というわけで。

 KOH様と、某氏へ、感謝をこめて捧げます。

 ちなみに。
 返品は不可ですので(笑)。

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