匿名希望さん 作
どんなに忙しい朝でも忘れずに。
「いってらっしゃい。」
そのときにできる一番の笑顔で、彼を送り出す。
対する彼の方は、ちょっとぶっきらぼう。
ひらひら。
聞こえているという風に、軽く手をふるだけ。
ちょっと無愛想すぎると、一人で拗ねてみたりしていたけれど。
照れ隠し。
そう気づいたのは、風邪で寝込んだ時。
熱のせいで起き上がることもできない私。
身支度を整えた彼が、枕もとへやって来て。
額にのせてくれた手がひんやりと心地好い。
「まだ、熱高いな。できるだけ早く帰るから、ちゃんと寝てろよ。」
「うん…」
立ち去りかけて。
でも、立ち止まって。
「忘れ物?」
「ん…」
振り返り、所在なげに立ち尽くしたまま。
不意に思いあたる。
自然に笑顔がこぼれる。
「いってらっしゃい。」
安心したように、小さく笑う彼の笑顔と、ひらひらと揺れる手を見つめて。
いつの間にか、心地好い眠りについていた。
「ただいま。」
「お帰りなさい、浩平。」
「って、瑞佳、熱はさがったのか?」
「うん、もう大丈夫だよ。」
「そっか。」
そして、今日もまた。
「いってらっしゃい。」
幸せな想いを、笑顔にのせて。
〈後書き…?〉
またやってしまいました、ガラじゃないシリーズ第二弾(笑)。
こういうほんわかした雰囲気(のつもり)のSSは、いつもの浩平と留美のシリーズではどうしても書けないので、瑞佳に再登場してもらいました。
次があるかは不明ですが、よいタイトルが浮かばなかったので…(苦笑)。