君に贈る歌


匿名希望さん 作


 旅立つ人と見送る人が入り混じる、ざわめきに満ちた空港のロビー。
 歌手として、またティオレ・クリステラの後継者として、忙しい毎日をおくるフィアッセの久しぶりの休暇は、日本での家族との再会から始まった。

「ただいま〜!」
「お帰り、フィアッセ」
「お帰りなさい、フィアッセさん」
 出迎えの恭也と忍に、フィアッセは満面の笑顔を返す。
「表に車、まわしてありますから」
「そう言えば、忍、免許とったんだね」
「はい。おかげで、きょ、高町君の通院やらリハビリやらで、タクシー代わりにこき使われてました」
「人聞きの悪い言い方をしないでくれ」
 悪戯っぽく笑う忍に、憮然とした表情で返す恭也。
「あはは」
 楽しそうに笑うフィアッセ。

 久しぶりの再会を喜ぶ、それは、優しい光景だった。
 ほんの少しだけ。
 そう。
 ほんの少しだけ、二人を見つめるフィアッセの表情に、哀しみの色が浮かんでさえいなければ。

『そう…恭也は忍を…それでも…』

 さて。
 フィアッセを迎えた高町家は、その夜、大いに盛り上がった。
 それはもう、盛り上がりまくった。
 どのぐらい盛り上がったかといえば。

 いつもより2倍ぐらいの頻度で
「カメはどいてろ!」
「おサルこそ、引っ込んどき!」
 と晶とレンの死闘が始まり。

 いつもより3倍ぐらいの派手さで
 ガッシャン!!
 ドガン!
 バリバリ、ガッコン!
 物が壊れる音と、晶がぶち跳ぶ音と、ついでにぶち跳んだ先で、さらに物が壊れる音が響き。

 いつもより4倍ぐらいの音量で
「い〜加減にしなさ〜い!!」
 と、なのはの雷が落ちて。

 いつもより5倍ぐらいの酒を飲んで
「あはははは」
 と、すこぶるご機嫌に笑う桃子の姿と。
「あ、あはは…」
 苦笑気味に笑う美由希の姿があった程である。

「みんな、ありがとね〜」
 にこにこ微笑みながら、そんなみんなの姿を見ているフィアッセ。

 そこにあるのは、変わらない光景。
 海外で活躍している姉が、久しぶりに帰ってくる度に、いつも繰り広げられる賑やかすぎる光景。

 …そのはずだった。

「なあ、レン…」
「何や?」
「師匠と、忍さんって」
「ほう、鈍感な晶にしては、よう気がついたなぁ」
「あのなぁ、一言多いよ、お前は。って、それはまあ、おいといて。やっぱり、あの二人って」
「多分…」

 いつもなら騒いでいる側にまわる忍が、恭也と談笑しながら、そっと寄り添っている。
 そして、恭也もまた、時おり相槌を打ちながら、やわらかい表情をしている。
 未だ、はっきりとそう告げたわけではない二人の関係が、何となく、みんなに伝わっていた。

 だから。

 にこにこしているフィアッセを見つめながら、美由希は意を決したように、恭也に呼びかける。
「恭ちゃん、ちょっといいかな」
「ん、何だ?」
「ちょっと…大事な話があるんだ。あ、ごめんね、忍さん。ちょっと、恭ちゃん借りてくよ」
 ちらり。
 微笑んでいるフィアッセと、幾分硬い表情の美由希を見比べ。
「…ごめんね」
 かすかな声で、そう呟く忍。

 いつもの鍛錬だと桃子達に言っておいて、フィアッセお帰りなさいパーティの会場だったはずが、いつの間にか宴会へと化している騒がしいリビングを抜け出し、美由希は恭也を道場へ誘う。

「話って、何だ」
「うん…あのさ。恭ちゃん、忍さんと、その…付き合ってるの?」
 その瞬間、薄暗い道場の中でもはっきりとわかるぐらい、恭也の顔色が赤くなった。
「な、何故それを。忍に訊いたのか?」
「誰にも聞いてないよ。と言うか、恭ちゃん、気付かれてないと思ってたの?」
 分かり易い兄の反応に、いささか呆れ、思わず苦笑してしまう美由希。
 と、そんな場合ではなかったと、表情を引き締めて本題を切り出す。
「それじゃあさ、フィアッセのことは…?」
「フィアッセ…?フィアッセがどうかしたのか?」
 やはり、気付いていなかった。
 こういう感情には、かなり鈍感な兄だから気付いているとは、思わなかったけれど。
 意を決して、言葉を続ける。
「本当は、私が言うべきことじゃないとは思うけど。フィアッセは…恭ちゃんの事を、好きだよ」
「フィアッセが…俺のことを…?」
 呆然と呟く、恭也。
 思っていもいなかったことを告げられ、つい反論してしまう。
「それは、家族としてだろう?」
「違うよ。一人の女性として、フィアッセは恭ちゃんの事を思ってるよ」
「だとしたら、俺は…」
 呆然とした表情が、やがて、苦しげなものに変わっていく。
 同じように、心を痛めながら、美由希は言葉を続ける。
「だからさ、フィアッセの想いに、ちゃんと答えてあげてね。多分、ずっと長い間、フィアッセは恭ちゃんの言葉を待ってたはずだから」

 気付いてしまえば、それはあっけなかった。
 フィアッセの視線、表情。
 何気ない言葉、笑顔。
 それら全てに、込められていた想い。
 皮肉なことだが、忍の想いを受け入れた今だからこそ、それがわかる。
 気付かなかったと言えば、全てが許されるわけではない。
 己のしてきたことが、どれほどフィアッセの心を傷つけてきたか、恭也ははっきりと自覚した。
 苦しげな表情の恭也を見て、美由希は自分の心も抉られているように感じる。
「ごめんね、恭ちゃん」
「いや、はっきり言われなければわからなかった俺が悪い。お前が謝る必要はない」
「あのさ、誤解しないでね。忍さんがダメだって言ってるんじゃないよ。ただ、たださ、フィアッセは、ずっと一緒にいたから、だから…」
「わかってる。だから、泣くな」
「ご、ごめ…ごめんね」
「泣くなと言っている」
 今、この瞬間も笑顔でいるであろうフィアッセの切ない気持ちも、気付いてしまった恭也の苦しさもわかるから。
 罪悪感と、後悔と、切なさと、苦しさに。
 胸を詰まらせ、美由希は零れ落ちてくる涙を止められなかった…

 海鳴滞在中宿泊するホテルへと、タクシーで帰っていくフィアッセを見送り、恭也は一つの決意を固める。
『フィアッセに…俺の気持ちを伝えよう』

 そして、走り去るタクシーの中。
 フィアッセは道場へ行ったきり戻ってこない美由希と、何かを決意している恭也の表情から、2人の中で交わされた会話の内容を悟っていた。
『ありがとう、美由希。辛い思い、させちゃったね。伝えるから…そして、ちゃんと吹っ切るよ』

 翌日から、何とかフィアッセと話をしようとする恭也だが。

「フィアッセ、今日は」
「あ、師匠、すみません。今日はオレとなのちゃんとレンのやつの買物に付き合ってもらう約束で」
「ごめんね、恭也」
「いや、いい…」

「フィアッセ、今日は」
「なになに、恭也、フィアッセに用があったの?ごめ〜ん、今日はね、久しぶりに翠屋手伝ってもらっちゃおうかなって」
「いや、それはかまわないが…光の歌姫に、ウエイトレスをさせるのか、かーさん」
「い〜じゃない、フィアッセだってノリノリだし〜」
「あはは、久しぶりにこの制服着るよ〜」
「…」

 というような調子で、なかなかフィアッセに話ができないでいて。
 とうとう言い出せないまま、フィアッセがイギリスへと帰る前日になってしまった。

 その夜。
 レコーディングの為に一足先に日本に帰ってきていたゆうひも、フィアッセと一緒に明日イギリスへ戻るため、さざなみ寮では大送別会が始まっていた。

「酒、酒が足りね〜ぞ、耕介!」
「桃子さんも〜、お変わり〜」
「はいはい、只今」
「はい、おつまみできました!」
「こっちの点心もおつまみに最適ですんで、食べてください」
「リスティ、それあたしの!」
「ケチなこと言うなよ、美緒。たくさんあるじゃないか」
「そっちの野菜のは嫌いなの!」
 さざなみ寮のメンバーと、高町家一同が入り混じっての大騒ぎである。
 調理担当の耕介、晶、レンがフルスピードで料理を供給するものの、片端から消えていく。
 酒好きの真雪が浴びるように飲むと、一緒になってハイペースで桃子も飲む。
 パーティの主役であるはずの、ゆうひとフィアッセは会場の片隅で。
「なんだか、私たち忘れられてるね」
「ま、ええんとちがうかな。しんみりしてるんは、うちもフィアッセも苦手やし」
「そうだね」

 かくして、主役を押しのけて宴会と化したさよならパーティは深夜にまで及んだが、さすがに明日起きられないからと日付が変わる直前に解散となった。
 寮生たちは自室へ戻り、高町家の面々が帰宅し、忍も迎えに来たノエルと共に帰る。
 フィアッセだけは、恭也がホテルまで送ることになり…
 
 真夜中。
 片付けてないままのリビングで、まだ酒をあおっている人影が二つ。
「珍しいね、真雪がちょっかいをかけないなんて」
 何となく皆にばれてしまった恋人達のさりげなくも仲睦ましい様子を思い出して、リスティは言う。
「恭也と忍のことか?ま、そんな気になれない時もあるさ」
「そう…?」
「ぼーずこそ、今日はずいぶん大人しかったじゃないか。フィアッセ…か?」
 一見するとドライな二人だが、人の心の機微には鋭すぎるほどに鋭い。
 無理をして笑っているフィアッセの感情が、はっきりと見えていた。
「ん…ボクは、まぁ、トドメさしちゃったみたいなものだしね」
 煮え切らない恭也に対し、背中を押すような発言をしたことを思い出しながら答える。
「そうか…」
 それ以上何も語らず、ほろ苦い笑みを交わしてグラスを傾ける。

『わかってたの、お兄ちゃんにとって、私は妹としてしか映ってないって。でも…でも、好きだったの…ずっと、ずっと、好きだったのっ…』

 淡い恋の終わりに、自分の胸をぬらした妹の姿を思い出す真雪と。

『お義父さん、か…こんなの…ボクらしくないよ…』

 告げることさえできず、金色の羽を夜風の中で震わせていた、あの時の想いを蘇らせるリスティは。

 ただ黙ってグラスを傾け続ける。
 今夜の酒は、やけに苦かった…

 さざなみ寮からタクシーに乗ったものの、フィアッセの希望で、少し歩こうとホテルの少し手前で車を降りた二人。
 恭也は、これが最後のチャンスだと思うもののきっかけがつかめずにいた。

「夜風がもう、すっかり秋だね」
「ああ…」

 他愛無い話をして、ホテルまでの道をゆっくりと歩く。

「フィアッセ、その、何だ」
 意を決して伝えようとした時、それを遮るかのように。
 
「ね、恭也、覚えてる?」
 フィアッセが問いかける。
「何をだ」
「私がイギリスに帰る時、いつも美由希は行っちゃ嫌だって泣いてて、そんな美由希を慰めながら、恭也は泣きそうになるのを堪えて黙り込んでたよね」
「フィアッセだって、泣いてただろう」
「ふふふ、そうだね。イギリスも大好きだけど、日本の、海鳴の、高町家が本当に大好きだったから…」

 一瞬の沈黙。

 その後、ゆっくりと微笑みながら近づいてきたフィアッセは、そっと恭也の胸に顔を寄せて囁いた。

「あの頃から、ずっと、恭也を愛してたよ」

 ついに、その時が来たのだと、恭也は悟った。
 答えを、返さなければいけない。
 誤魔化すことは、それだけは決してしてはいけない。
 お互いにとって、それがどれほど辛くても。
 もう、恭也は選んでしまったから。
 忍のそばにいることを。
 フィアッセのそばではなく。

 だから。

「すまない、フィアッセ。俺は、その想いに応える事ができない。俺は、忍を…愛しているから」

 酷い言葉を言っている。
 傷つけている。
 笑顔のまま、涙も見せずに心の中で泣いている、この優しい人を。
 フィアッセからよせられていた想いに気付かず、否、気付こうともせずに、曖昧な態度のまま彼女の優しさに甘え続けた。
 そういう己の弱さが、最も守りたかった人を泣かせている。
 
 その事実が、鋭い刃となって恭也の胸に突き刺さる。

 胸が痛い。
 千切れるように痛い。
 つきたてられた刃で、何度も何度も心臓を抉られているかのようだ。

 けれど、この痛みは、フィアッセが今感じているであろう心の痛みに比べれば、ずっと軽い。
 だから。
 泣く事は、決して許されない。
 例え、どれほど胸が痛もうとも。

 そして。
 フィアッセが、心から望んでいる言葉が、こんな言葉などではないと確信していながら告げようとしているその、己の身勝手さに。
 鈍さに。
 弱さに。
 吐き気がするほどの怒りが込み上げてくる。

 それを無理やり押さえ込み、奥歯を砕かんばかりに噛み締めてから。
 今の、精一杯の恭也の心を伝える言葉を。
 絞り出すような声で、告げる。

「守るから…何処にいても、何があっても。必ず、守り抜くから」

 腕の中で震える女性(ひと)を。

「フィアッセは、俺の大切な…家族、だから」

 誓う。
 幼い日の誓いを、今ここで、もう一度。
 心から、誓う。
 今の恭也に許されている、ただ一つの想いをこめて。

「守るよ…」 

 その言葉を聞き終えたフィアッセは、ゆっくりと恭也から離れる。
 幾分、瞳を揺らしながら。
 それでも、涙を見せず、恭也を気遣うように、笑みさえ浮かべながら。
「ありがとう、恭也。きちんと答えてくれて。忍を…大切にしてあげてね。明るくて優しい子だけど、寂しがりやなところがあるから」
「ああ…わかってる」
 何処までも優しいフィアッセの言葉に、耐えていた涙をこぼしそうになりながら、わざとぶっきらぼうに答える。
 そんな態度さえも、恭也の優しさだとわかっているから。
 わかってしまうほど、一緒にいたから。

 限界…だった。

「送ってくれてありがとう。ここまででいいよ」
「わかった」
 恭也に背を向けて、フィアッセは走り去る。
『まだ、ダメ。まだ泣いちゃダメ…』
 あふれそうになる涙をこらえて、必死に走る。
 
『もしも…もしも、あの日のまま、恭也とずっと一緒に季節を過ごしていられたら…翠屋のチーフウエイトレスとして、恭也の側にずっとずっといられたら…』
 
 ティオレの後継者としての道を、選んでしまった今となっては。
 歌を歌い続けることを、選んでしまった今となっては。
 そして、恭也が忍を選んだ今となっては。

 それは…決してかなう筈のない夢だとわかっていても。

 もしも、もしも、もしも…

 心の中で、そう思い続けることをとめられないまま。
 ただ、溢れそうになる涙をこらえて、ホテルまでの短い距離をフィアッセは走りつづける。

 翌朝。

 一番最初にイギリスに旅立った時のように、耕介達とのお別れをさざなみ寮の前ですでに済ませていたゆうひが、少し離れた場所でそっと見守っている中。
 出国前の、あわただしい雰囲気の空港で、高町家の面々はフィアッセとの別れを惜しんでいた。
 
「フィアッセ、またね」
「うん、またね、美由希」
 すぐ近くへ出かけるかのような、気楽な雰囲気で別れを告げる美由希。
 そのさりげない優しさが、フィアッセには嬉しかった。

「あんまり仕事、張り切りすぎないでね。倒れたりしたら、桃子さん、心配で心配で、イギリスまで飛んでっちゃうから!」
「ありがとう、桃子。桃子こそ、翠屋のお仕事、張り切りすぎないでね」
 姉のような、もう一人の母のような桃子の優しさが嬉しかった。 

「フィアッセさん、今度帰ってくるまでに、もっとおいしい日本料理作れるようになっときますから、楽しみにしててください!」
「身の程知らずなおサルの大言はともかく、ウチも薬膳料理をマスターしときますんで、疲れたら無理せず休暇をとって帰ってきてください」
「誰が、身の程知らずだって?」
「アホやアホやと思とったけど、はっきり言われなわからんて…あんた、ほんっまにアホやな」
「なんだとー!」
「ほ〜、やるっちゅうんか?」
「晶ちゃんも、レンちゃんもやめなさい!!」
「あははは。晶もレンも、仲がいいのはいいけど、怪我しないでね」
「あ、はい」
「仲が良いゆ〜んは、ちょう、ひっかかりますけど、わかりました」
「あと、なのはも心配しすぎないでね。この二人のケンカはコミュニケーションのひとつだから、ね」
「う〜、わかってはいるのですが…」
 いつもと変わらない、バトルなやりとりの晶とレン。
 それを諌めるなのはも、いつもと変わらなくて。
 その、いつものと変わらないやりとりが嬉しかった。 

「フィアッセさん、あの」
 うつむき加減で、おずおずと言いかけた忍の言葉をさえぎり、想いを込めて言葉を紡ぐ。
「忍、桃子のサポートと、あと、恭也のこと…お願いするね。恭也、すぐ無茶するから」
「!は、はい!」
 はじかれたように、顔を上げて。
 笑顔の中にこめられたフィアッセの想いを、忍はしっかりと受け止め、返事を返す。
 
 そして。

「フィアッセ、元気で」
 そっけない恭也の別れの言葉は、彼なりのけじめと…思いやりだとわかっているから。
「うん、恭也も」
 言えない想いを抱えて、フィアッセは微笑み。

「じゃ、またね、みんな」

 笑顔のまま、機内に乗り込む。
 それを見終わると、ゆうひも桃子達にあいさつをして、機内に乗り込んだ。 
 通りすがりに、恭也にそっと囁きを残しながら。
「フィアッセのことは、任しといて、な」
 ただ黙って、頭を下げる恭也。

「帰ったら、いっぱい仕事しなくちゃね、ゆうひ」
 そう言いながら、ゆうひに笑いかけるフィアッセ。
「もうええよ、フィアッセ」
「ゆうひ…?」
 包み込むような笑顔で、そうフィアッセに囁く。
「フィアッセは、優しいからな。みんなに心配させるとあかんと思って、笑っとったんやろ?」
 びくりっと、肩を震わせるフィアッセ。
「もう、泣いてもええよ…」
 優しい、とても優しい声で、そうゆうひが囁くと、こらえきれずにフィアッセの瞳から透明な雫がこぼれ始める。
「…ゆうひ。うっ…」
 そんなフィアッセの肩をそっと抱きしめて。
「えぇ歌を歌おうなぁ、フィアッセ。今の想いを大切に抱きしめて。ホンマにええ歌を歌おうなぁ」
 冬の日の陽だまりのような声で、ゆうひがそう語りかける。
「うん…うん、ゆうひ…」
 肩を抱かれ、涙声で答えながら、フィアッセは胸の中で思う。
 強く強く思う。

 今はまだ痛む胸の中の想い込めて
 歌を歌おう
 優しい 優しい歌を歌おう

 楽しい歌を
 哀しい歌を
 切ない歌を
 嬉しい歌を
 
 いのちの歌を

 歌を歌おう 

 世界中の何処にいても届くように
 歌を…歌おう


<後書き…?>

 EDに「See you 〜小さな永遠〜」(とらハ3ED)を思い浮かべながら読んでいただけると、とても嬉しいです。

 信じてもらえないかもしれませんが、これでも私、とらハ3ではフィアッセが一番好きです(汗)
 じゃあ、何でふられちゃうSSを書いたかと言えば…
 何ででしょう?(爆)
 いや、きっかけは下に書いてあるCDドラマなんですが、OVAのヒロインがフィアッセだと知った時、当然恭也のお相手も彼女だと思い込んでまして。
 CDドラマ聞いて、びっくり、大ショック。
 忍とくっついてる…
 いや、忍が嫌いなわけではないのです。むしろ、好きです。ほんとです。
 ただ、思い込みがあまりに強すぎただけで…
 「フィアッセにちゃんと失恋をさせてあげて、吹っ切らせてあげたい」
 なんとなく、彼女の場合、言わないまま気持ちをしまいこみそうなイメージもあるのですが、それじゃ、あんまり切ないと、そう勝手に思い込みまして。
 で、そこからこのSSが生まれました。

 あと。
 これは蛇足なのですが。
 このSSは、CDドラマ「忍と恭也の静かな日々」を元に、その直後ぐらいの季節をイメージして、作成しております。
 このSS作成時点では、まだ、OVAを見ておりませんので、OVAとは食い違っている可能性が大です。
 その点につきましては、広〜い心でお許し下されば嬉しいのですが…

 さらに。
 蛇足の蛇足になりますが。
 このSSでは、ほとんど出番のない耕介は愛さんと結ばれており、言い出せぬまま、知佳とリスティは初恋を散らし、友達というポジションを崩さずに人知れずゆうひも涙をのみました。
 …こういうことはさりげなくSS内で書くべきだとわかっているのですが、如何せんそれだけの力量が(汗)

 こんなSSですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。



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