匿名希望さん 作
空はどこまでも青く、照りつける陽射しはじりじりと地面を焦がしている。
まさしく、絶好の。
「ん〜。絶好の洗濯日和!!」
庭に出た留美は大きく伸びをした。
そう、洗濯日和である。
赤ちゃんがいる生活というのは、洗濯物と戦う生活でもあるのだ。
数日ぶりの快晴。
乾燥機という文明の利器はあるが、やはり、洗濯物は太陽の光で乾かしたい。
さらさらに乾いて、あったかい陽の光をたっぷり受けた洗濯物を取り入れるときというのは、なんとなく、くすぐったいような幸せを感じて嬉しいものだ。
洗濯籠におさまった洗濯済みの大量の布オムツと衣類を、留美は上機嫌で干していく。
「ふん、ふん、ふん〜♪」
時折、鼻歌など歌いながら、手際よくオムツを干す姿は、2ヶ月前より少しだけ母親というものが板についてきたようにも見える。
「お〜い。コーヒーが入ったぞ〜。」
窓から呼びかける浩平。
最近は、彼も家事に協力的になった。
学生時代の彼からは想像もつかないが、日曜の朝には、こうしてコーヒーとトーストだけの簡単な朝食さえ用意してくれる。
もっとも。
先日、理性のとんだ留美がいかに怖いか、あらためて思い知ったからかもしれないが。
「ありがと。これだけ干したらいくから。」
残りの洗濯物を手際よく干すと空になった洗濯籠をもって部屋に入っていく。
「おまたせ。留華が寝てる間に朝食、済ましちゃおうか。」
席についた途端。
「んぅぅ、ん、ぎゃ〜!」
「まさか、わざと…じゃないわよね。」
軽くため息。
「あ、浩平、先に食べてて。後で代わってもらうから。」
「ああ、わかった。」
皿の上で冷めていくトーストに、多少の未練を残して席を立ち留華のもとへ急ぐ留美。
「さ〜て。留華はオムツがぬれたのかな〜。」
そういいながらオムツをほどく。
案の定、オムツの中にはオシッコと少量のウンチ。
「お尻がぬれて気持ち悪かったのね。」
新しいオムツを用意し、汚れたオムツをはずしてお尻拭きでお尻を拭く。
「そういえば、最初はオムツを新しいのに替えてる間に、オシッコされたっけ。」
「で、おまえがキレそうになって。」
朝食を終えた浩平がちゃちゃを入れる。
「そうそうって、キレないわよ、それぐらいじゃ。」
軽口をたたきながらも新しいオムツをつける。
くぐもった音。
「さっそくしたみたいだ。」
「今替えたばかりなのに〜。」
再度、オムツを替えようとほどいた途端。
パリッ!!
小気味良い音とともに、それは宙を舞った。
「何!?」
学生時代に剣道でつちかった運動神経で、とっさに後ろへよける留美。
宙を舞った物体。
それは…
留華のウンチだった。
青みがかったグレーの絨毯に黄色いウンチ。
「色彩としては、綺麗だよな、うん。それにしても、ウンチって飛ぶんだな。俺、初めて知った。」
うんうんとうなずきながら、とぼけた感想をのべる浩平。
「私も…じゃなくてっ!」
固まっていた留美が我にかえる。
「留華は、乙女なのよ〜!!」
その朝、留美の絶叫が折原家に響きわたったとか、わたらなかったとか…
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