Kanon 俺の夏物語
           その三(午後編)

俺は今泣いていた。・・・ベランダで。
別に悲しい事があった訳じゃない。
預金が無くなった訳でもない。
ただ・・・辛い。とても。
今のも干からびそうだ。
どんな状況かと言うと・・・。
“鉄線の仕込まれた縄”で“捕虜の様に縛られている”。
・・・ベランダで。
たぶん、今、日本でこんな姿になっているのは俺だけだろう。
聞こえてくるのは階下の名雪と真琴のはしゃぎ声。
と、うるさいセミの声。笑われている様で嫌だ。

ふと、階下の声が消える。
「?」
次のにはものすごい叫び声と階段を駆け上がる音。
ガラララ!!勢いよくベランダのドアが開く。
「祐一大丈夫!?」
「生きてる!?バカ?」
「誰がばかじゃい!」
ベランダに出て来たのは当然名雪と真琴であった。
「ごめんね祐一、すっかり忘れてたよ」
そう、俺がベランダにくくり付けられてから二時間は経っていた。
「たくっ、俺を殺す気か」
「でもピンピンしてるわね。やっぱりバカだわ」
何やら真琴が腕組みしながらうんうんと頷いている。
後でおしおきだな。
「今解くから」
名雪がしゅるしゅるとロ―プを解いていく。
「あ〜しんどかった」
肩をぐるぐる回す。
「で、どうだったの?」
真琴が顔を覗き込みながら聞いてくる。
「ん?何がだ?」
「恐・怖・症!」
「ああ、そんなもん十分で慣れた」
「やったね!祐一!」
笑顔の名雪が“ふぁいと”のポ―ズで言ってくる。
「ああ、まあな」
それより今は水分を補給しなければ・・・。
死ぬぞ。本気(マジ)で。

その後、充分に“ポカリ”を飲み、無事水分補給を果たす。
まあ、当初の目的は達成したわけだし。良しとするか。
「これで、安心して遊びに行けるね」
「そうだな」
さて、やる事はやったし、商店街でも行ってくるか。
「ちょっと、出掛けてくる」
すくっと立ち上がりながら言う。
「いってらっしゃい」
「わあ、祐一待って待って」
真琴が慌てて言ってくる
「なんだよ」
「肉まん。買ってきて」
「売ってるか!」
「あぅ―、何でよぉ―」
「ス―パ―のパックの奴なら売ってるかもし
れないけどな」
「コンビニのが良い」
「売ってないちゅ―に」
「なんで?」
「夏だから」
「何で夏だと売ってないの?」
「暑いから」
「どうして暑いと・・・」
「だぁぁぁ!んなもん知るか!」
「あぅ――」
「じゃあ!いってくるからな!」
とても残念そうにしている真琴を尻目に俺は出掛けた。

もう歩き慣れた道を歩きながら商店街に向かう。
さて、商店街に着いたのはいいが。
これといって用事がある訳ではないし。
ぶらぶらと立ち読みでもして帰るか・・・・。
と、俺が近くの本屋に入ろうとした時・・・。
「祐一く〜ん」
!!6時の方向より敵機接近!
俺は危険を察知し素早く横に飛ぶ。
ごち―ん!!
見事に敵機を撃墜した様だ。
「敵機じゃないよ!」
「パイロットの生存を確認」
「うぐぅ」
「パイロットはうぐぅ星人だった」
「いつまでやってるんだよ!」
「いや、悪い悪いおもしろいもんでつい・・・」
俺はものの見事に本屋の前の自販機に突っ込んだあゆに向けて言った。
「全っ!然っ!おもしろくないよ!」
とうとう“ぷいっ”と横を向いてしまう。
ありゃりゃ、やり過ぎたかな。
「ごめん!俺が悪かった!」
「・・・・」
「たいやきおごるから」
「本当?」
「俺がうそを吐いた事があるか?」
「うん」
「じゃあ、今の件は無かった事に」
「わあ、うそだよ」
いつの間にか立場が逆転している。
「冗談だ、男に二言は無いからな」
「じゃあ、さっそくいこうよ」
「今からか?」
「うん!」
ま、いいか暇つぶしに来ただけだし。
「じゃ、行くか」
「うん」

夏の暑いア―ケ―ドをあゆと並んで歩く。
「そういえば楽しみだね」
「たいやきか?」
「明日!」
「ああ、そうだな」
「名雪さん達も来るの?」
「もちろん。秋子さんも来るぞ」
「わあ、僕秋子さんのお弁当食べてみたいな」
「頼んどいてやろうか?」
「・・・いいのかな、何だか催促したみたいで」
あゆがすまなそうに俯く。
「催促だよ」
「うぐぅ」
「はは、大丈夫だ。あの人の事だからそんな事気にしないよ」
「そうかな」
「ああ、大丈夫だって」
「うん、じゃあお願いするよ」
「ん、分かった」
そんな会話をしてる内にたいやき屋の前に着く。
が、
「シャッタ―が」
「閉まってるね」
よく見てみると、はり紙がしてある
「私用で出掛けます故ご了承下さい。ばいちゃ?」
どうやら、おちゃめな性格らしい。
“はあ“
二人同時にため息をつく。
「・・・・どうする?」
「どうしよう」
「・・・・しゃあない帰るか」
「・・・・うん」
とっても残念そうだ。
「また別の日におごってやるって」
ポン、とあゆの頭に手をおく。
「うん、じゃあ今日はここで解散だね」
「そうだな」
「ばいばい!祐一君」
「おう、車を轢くなよ」
「どういう意味だよ!」
飛び跳ねるあゆの背中が小さくなっていく。
最後までその背中を見送り、家路についた。

「ただいま」
水瀬家の門をくぐり、ドアを開ける。
「あ、祐一おかえり」
ちょうどそこに階段を下りてきた名雪がいた。
「おう、ただいま」
靴を脱ぎ家にあがる。
「ちょうどご飯が出来たとこだよ」
「そりゃありがたい」
さっそくキッチンに名雪と移動する。
「あら祐一さんおかえりなさい」
「ただいまです」
テ―ブルには、ふっくらとおいしそうなご飯
大きいボ―ルに盛られたサラダ。
程よく焼かれた鮭。
その他漬物など。
今日もうまそうだ。
まあ、秋子さんのメシがまずかったことは無いしな。
あのジャム以外。
「祐一さんも食べますよね」
「ええ、頂きます」
ふと、家族が一人いない事に気づく。
「真琴はどうしたんですか?」
自分の席に着きながら尋ねる。
「さあ?部屋に居るんじゃないかしら」
「私見てくるよ」
名雪がそう言って二階へと上がっていった。
ちょうどその時玄関でドアが開く音がした。
まさか、アイツ・・・・。
「はう〜肉まん〜」
やっぱりか。
予想通り玄関では半べそで真琴が靴を脱いでいた。
「だから売ってないて言っただろう」
「だって〜」
「そんなに食いたいんなら今度秋子さんに作って貰え」
「あ、それいいかも」
まったく、調子のいい奴め。
「あ、祐一。真琴部屋に・・・あれ?」
ちょうど二階から降りてきた名雪が目をパチクリさせている。
「何だ?真琴ならここにいるぞ」
「どっか出掛けてたの?」
「うん、ちょっと」
「銀行強盗の下見だ」
「わあ。あたしそんな事しないわよ!」
「ほら祐一も真琴もお母さん待ってるよ」
「ちっ、勝負はお預けだな」
「そのようね」
お互いに捨てゼリフ言ってキッチンへ向かう。

《いただきま〜す》
全員一斉に食べ始める。
もぐもぐ。
「ハハハ、甘いなアムロ!そのハムは私が貰った!」
「ああ〜真琴のはむ〜」
俺は赤い彗星のマネなどしながら真琴のおかずを奪う。
「あ、そうだ秋子さん」
「はい?」
「明日弁当持ってく予定あります?」
「ええ、一応は、何でですか?」
「いや、あゆの奴が秋子さんの弁当を食べてみたいって言ってたから」
「まあ、うれしいわね。がんばっちゃおうかしら」
頬に手のおきまりのポ―ズで微笑む。
かわいい・・・。じゃない!
こ、この人は一体何歳なんだ。
思わず一瞬ときめいちゃったじゃないか。
「どうしたんですか?祐一さん」
「い、いや何でもありません!ごちそう様でした〜!」
俺は逃げる様にキッチンを出た。
食後は風呂に入り床につく。
いよいよ明日出発か・・・・。
楽しみだな。
明日の事を考えている内に
俺の意識は眠りの渦に呑まれていった。

あとがき!
ども、たいスタです。なんか今回あゆとちょっとラブってた様な気が・・・・。
たしかに私はあゆ属性ですが・・・。
ま、いいか気のせいですね。
後、真琴がオ―フェ○のクリ―○ウに似ていると思うのは私だけでしょうか?・・・・・・
まあいいや!(汗)
じゃ、ご感想お待ちしてます。


感想等は こちらまで お願いします。


二次創作置き場へ戻る   その三(午前編)へ戻る   その四へ





inserted by FC2 system